牝啼き村 -そして、少女は娼婦になった- 僕の章(本記事)
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田舎なんてつまらないよなあ・・・・。
僕はそう思った。
僕は隣町行きのバス停に急ぐ、1日数本しか無いバスを逃すと遅刻どころが、休み確定だった。
バスに乗るのは僕一人だったはずだが、バス停には僕と同じくらいの年齢の女の子が一人いた。
こんな子は村にはいなかったはずだけど。
女の子は僕の通っている学校とは違った制服を着ている。
僕の学校は男女ともブレザーだが、女の子はセーラー服を着ていた。
恐らく、村の人の親戚か誰かだろう。
今日帰ったら父さんに聞いてみよう。
バスが来ると女の子はバスに乗り込む。
ここいらは過疎なので僕ら以外は誰も乗らないし、もちろん僕ら以外の乗客は乗ってない。
僕と女の子は当然の如く別の席に座る。
バスは僕の高校の近くのバス停に止まると女の子も一緒に降りた。
(あれっ、この辺はウチの学校しか無いはずだけど・・・)
女の子は僕の先をずんずん歩いていき、結局僕の学校に入っていった。
(転校生・・・か?)
僕はいつも通り自分の教室に行くクラスメイト達と他愛のない話に興じると今朝の女の子のことはすっかり忘れていた。
「お、そう言えば、省吾知ってるか?なんでも転校生が来るらしいよ。」
「へえ、こんな時期に?」
「そうなんだ。うちのクラスじゃないみたいだけど」
あの女の子は転校生で確定だな。
僕はあの目立つセーラー服を探してみた。
暫く探すと見つけた。
女の子に話かける。
「こんにちは。転校生って君のこと?」
「そうだけど・・・あなたは?」
女の子は怪訝そうな顔をして、僕を見た。
かなり警戒してるな。
「僕は加賀省吾って言うんだ。よろしくね。」
「私は神楽坂美樹っていうのよろしくね」
「神楽坂さんか。〇×村からバスに乗ってたよね?」
「そうだけど・・・」
「僕もなんだ。よろしく。」
「えーと、よろしくね?」
立ち話もなんだから、僕らは屋上に場所を移して話をすることにした。
「神楽坂さんって」
「美樹でいいわよ」
「美樹さんって」
「呼び捨てでいいわよ」
「美樹ちゃんって・・・・」
今度は何も言わないのでちゃん付けででもOKのようだ
「〇〇地区の人だよね?」
「えっ?どうして知ってるの?」
「ん?うちの村に外から来る人、あそこしかしかないんだ。」
「はあ・・・・」
美樹ちゃんは感心したのかあきれたのかちょっとびっくりしたようだ。
「っていうことは親は農園で働いてるの?」
「どうしてわかるの?」
「外から村に来る人はほとんどそれしかありえないから」
「凄っ」
「うちの村は変なことすると3時間後にはみんな知ってるから気を付けた方がいいよ」
「田舎怖っ」
「ああ・・・。美樹ちゃんとはもっと早く出会いたかった。」
「え、やだぁ。私そんなに可愛い?」
この子は結構いい性格をしているようだ。
「僕は小4からずっと一人で村の学校に通ってたんだ。卒業式も一人だったし、あと1年でも早く来てくれれば、寂しくなかったのになあ・・・」
「全校生徒一人って想像できない・・・・」
美樹ちゃんは想像を絶する田舎っぷりに絶句していた。
「村のことはもういいや。美樹ちゃんはどこから来たの?」
僕は都会の話が聞きたくて、目を輝かせる。
美樹ちゃんは気まずそうに目をそらした。
「私はK川県の×市というところかな。K川県でもかなり田舎よ。ご期待には沿えないかなあ。」
「いいよ、いいよ。全校生徒一人の学校がある村よりずっと都会でしょ。聞かせてよ。」
僕は美樹ちゃんの話に顔を輝かせた。
美樹ちゃんはあんまり都会じゃないと言ってたけど、それでも村よりはずっと都会だった。
美樹ちゃんが前に住んでいたところにはコンビニがあると言っていた。
それって凄いことだよ!。
暫く話をしていると、美樹ちゃんが聞いてきた。
「ね、ね、農園って何なの?親に連れて行ってって言ったんだけど、物凄い顔でダメって言われた」
「農園は、育ているハーブがこの辺でしか取れないものらしいんだ。僕は昔、外からちらっと見ただけだけど、柵で囲ってあって監視カメラとかも付けてるらしいよ。父さんからも冗談では済まないから、絶対に近寄るなって言われている。6コ上の先輩からも見つけたらグーで殴らないといけないから絶対に近寄るなって言われてる」
「へーえ」
「何か盗まれないようにしているらしいよ。」
「そんなに高く売れるの?」
「農園は組合の人以外には何も教えてくれないんだけど、高く売れるらしいよ。」
「なんで知ってるの?」
「ハーブを育てるようになってから明らかにうちの食事がよくなったから」
「私も一度見てみたいなあ。」
「僕も興味はあるけど、本当にやめた方がいいよ。村では組合の人以外はハーブのことは話を出さないのが暗黙のルールになってるから。夜になると防犯用に犬を放すらしいよ。」
色々話しこんでいるともうすぐ予鈴が鳴る時間になった。
名残惜しいが教室に戻ることにした。
この日、美樹ちゃんと一緒のバスで帰った。
帰りのバスで、バスを一本でも逃すと帰るのが難しくなるので部活に入るのは難しいことなどを説明する。
美樹ちゃんは田舎の恐ろしさに顔を少し青くしながら、真剣に聞いていた。
僕は先輩風を吹かせながら何か後輩が出来たようで、うれしくなった。
美樹ちゃんとは絶対にケンカしないようにしておこう。
なにせ、同世代は美樹ちゃんしかいない。
村の外の友達はバスを利用する都合上、気軽に村に来るのは難しいし、村の外に遊びに行くのも時間が限られるので、僕だけ先に帰るのが常だった。
そうするとやっぱり距離が出来てしまう。
いつも一緒に行動できるのは村から通っている美樹ちゃん一人だけだ。
僕は久しぶりに自分以外の村の同世代と出会って、うれしくなった。
何より美樹ちゃんはなかなか可愛い。
絶世の美女と言うわけでも胸が大きくて男を引き付けるようなタイプでもないけど、明るくて愛嬌があって、一緒にいて楽しいタイプの女の子だった。
次の日から僕は美樹ちゃんの家に迎えに行くことにした。
呼び鈴を鳴らす
「おはようございます」
お母さんが出てきたので挨拶すると
「ヤッホー。美樹の母の美奈ですよろしくね。美樹ー。省吾君来たわよー」
片手を大きく上げながら、後ろに花がぱあっと開くような勢いで元気よく挨拶される。
底抜けに明るい。なかなか個性的なお母さんらしかった。
しかも、かなり若く見える。
少なくともウチの母さんと同じくらいだと思うが、10歳くらいは若く見える。
「もー、お母さん変なこと言わないでよ」
美樹ちゃんがやってくる。
ハイテンションなお母さんの態度を見られて、照れているのか顔は真っ赤だ。
こういうところも可愛いなあ。
僕と美樹ちゃんは連れだってバス停に向かった。
「美樹ちゃんの家のあるこの一角だけ貸家なんだよ。」
「ああ、それで大体分かるんだ。」
「こんな村だから、家を借りる人なんて限られているからね。暫くは時の人だね」
僕と美樹ちゃんが話ながら歩いていると向こうから女の人が歩いてくる。
「おはようございます。」
二人声を揃えて挨拶する。
「お、おはようございます。」
この人は内田あゆらさん。
確か30才くらいだったはずだ。
黙っていれば普通の人だが、かなり態度がおどおどしていてあまり落ち着きがない。
この人も農園で働いているはずだ。
「今の人も農園で働いているって事なのかな?」
「そうだね。美樹ちゃんのお母さんの同僚ってことになるのかな?何年か前に村に夫婦で移り住んできたはず。旦那さんも農園でやとわれているはずだよ」
「あれっ?、あの家、カーテンかかってるね。」
「本当だ。前まで空き家だったのにな。誰か来るのかな。今日帰ったら父さんに聞いてみよう」
その日学校から帰宅してから父さんに聞いてみると、隣町にある企業が借家を借り上げたらしい。
藤本さんと言う人が引っ越して来たらしい。
こんな田舎に・・・と思わないではないが、どうも車があると意外と近いということで、以前はこの借家を借り上げする企業があったそうだ。
次の日の昼休み・・・
今日から美樹ちゃんは学校の制服が届いて、セーラーからブレザーに変更になっている。
セーラー服もよかったが、ブレザーもなかなか似合っていて可愛い。
「美樹ちゃんが来てから新しい人がどんどん入ってきて、村に新しい風を感じる・・・」
「大袈裟だなあ」
「いや、本当なんだって。こんなに人が来るのは珍しいよ。藤本さんはどんな人かなあ」
「お母さんが見かけたって言ってたけど、奥さん胸おっきくてすっごい美人らしいよ」
「本当に?」
「あー、男の子ってやらしいー」
しまった、と思ったがもう胸につられて食いついた後だった。
自分の迂闊さが憎い。
「胸が気になる?」
「い、いや・・・べっ別に、ぼっ僕は胸になんて興味はないかな。」
この言い逃れは完全に失敗だった。
どもって、挙動不審に聞こえる。
「本当にー?」
「ほ、本当だとも」
「本当にー?」
「ごめんなさい嘘です少し興味あります。」
少しではなかったが、プライドが邪魔をしてとても興味があるとは言えなかった。
僕らは顔を見合わせて笑った。
今日の帰りに見に行こうということになった。
帰り道・・
藤本さんの家の前で僕と美樹ちゃんはうろうろしている。
どうも留守らしく、藤本さんが帰ってきたら不審者と間違えられるかもしれない。
「ちょっと、まずいわよ・・・」
敷地の中に入っ行こうとする僕の袖を美樹ちゃんが引っ張って止めようとする。
「うちの近所だとこのくらい普通だよー?」
僕は構わず敷地に入った。
「田舎怖っ。でも本当にうちと作りが全く同じなんだ。」
「バブルの頃に売り出すつもりで開発したらしいけど、全然売れなかったらしい。三軒作って全く売れずにいたらしいよ。村で農園の従業員の社宅として買い取って、藤本さんの家は隣町の企業に貸しているみたい。」
「こらっ」
後ろから、少し大きめの声が聞こえる
「わあ、ごめんなさい」
びっくりして振り向くと、そこには目の覚めるような美人が立っていた。
怒っている顔すらも絵になっていて思わず見とれてしまう。
「すみません。私、隣の家に住んでいる神楽坂といいますが、ご近所に引っ越ししてきた方がいるということでご挨拶に伺いました。」
美樹ちゃんがとっさに機転を聞かせて挨拶してくれた。
「あら、これはご丁寧にありがとうございます。藤本あやせと言います。主人と二人でこちらに引っ越してきました。よろしくお願いします。」
僕は美樹ちゃんがあやせさんと挨拶している間、あの大きな胸をずっとガン見していた。
あまりに露骨だったのか、あやせさんが家に入った後、美樹ちゃんから肘を食らった。
「もー、男の子ってやらしー」
「ごめん。とっさに機転を利かせてくれて助かったよ。」
トホホ。早くも美樹ちゃんに頭が上がらなくなりそう。
「ご近所の挨拶って事でごまかしたけど、家と家の間が100mくらい空いてるから微妙な言い訳だよねえ」
「本当にびっくりした。」
「もう二度としないでね。省吾くんはともかく、ウチは本当に近所なんだから」
「ごめん。二度としないよ。」
藤本さんとは二度と会わないと思っていたが、その後もちょくちょく会って挨拶したり立ち話したりするようになった。
そんなある日の事、僕は父さんから注意を受けた。
「省吾は神楽坂さんの娘と仲がいいんだって?」
「うん、まあ・・・・」
「神楽坂さんはお金の問題を起こしてこちらに来ているからな。あまり付き合うのは感心しないな。」
「美樹ちゃんは関係ないでしょ。それに、小4から一人で学校通ってたのに、同じ世代の子がいたら男でも女でも一緒に通学するでしょ。」
「そうか・・・そうだよな。一応注意はしておいてくれ。」
「解ったけど・・・・僕らにはあまり関係ないと思うんだけど。」
「何もないとは思うけど、念のために・・・な。」
その言葉とは裏腹に父さんの表情は苦り切っていた。
「ところで農園の方はうまくいってるの?」
農園の話は組合員以外はタブーなのだが、僕は思い切って聞いてみた。
「ああ、問題ないよ。心配するな。」
ここで母さんが口を挟んできた。
「お母さんも農園で働きたいのよねえ」
「それは・・・組合員は一家に1人って決まってるし、お前が働いてももらえるお金自体は変わらないんだよ。それに一人入れると二人分、分配金をせしめるつもりかとうるさいんだ。元々あまり仲の良くない人もいる寄り合い所帯だからな。揉め事の原因になるから無理だなあ。」
「でも外の人を雇うくらいなら私たちでも・・・」
「だから外の人が必要なんだよ。金のもめ事はあとあと尾を引くからな。」
「今は女の人でも関係なく働く時代なのに」
「組合を作った当時はそうじゃなかったんだよ。」
このやり取りもかなり前からされている。
少しでも農園で働きたいお母さんたちと、当初の取り決めで一家に1人と決めてしまったため、断る父さんたち。
父さんたちが神経質になるのも理解できなくもない。
農園を始める前までは畑の境界線やら水利権などでかなり村人同士で揉めたという。
恐らく、今もあまり仲は良くないだろう。
父さんの説教が始まりそうになると、僕は決まってこの話をして話題をそらしている。
心の中で南無南無と信じてもいない神様を拝みながらその場を後にする。