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僕の章
僕には三人の幼馴染がいる。
一人は同じ年の梨沙
もう一人は一つ年上の歩
そしてもう一人は一つ年下の優子
梨沙は明朗快活で文武も両道、なんでもできるタイプで女子の中ではリーダーのような存在だ。
歩ちゃんは眼鏡をかけた物静かな文学少女タイプだが、芯が強い。
胸もかなり大きいが本人が気にしているので、本人の前では禁句だ。
優子は華奢で背が小さく、妹のような存在だった。
僕らはいつも一緒で三人は僕に好意を持っていたと思う。
しかし、僕は高1の夏休み、梨沙に告白して付き合うことになった。
高1の春休み、梨沙と僕はお互いにの体を重ね合った。
あの時の喜びは一生の宝物だろう。
3人との関係は一時微妙になったが、今も一緒に登校して、なにかあったら相談したりし合う友達の関係が続いている。
僕と梨沙は二人で前を歩き、少し遅れて歩と優子が歩く。
こんな日常を送っていた。
連休明け、歩ちゃんが僕たちと一緒に登校しなくなった。
とても気になかったが既に梨沙を付き合っている僕が歩ちゃんに何か言うことはできない。
学校で歩ちゃんを見かけると「洋次」と言うあまり評判の良くない男と一緒にいるところをたびたび見かけた。
洋次は僕の一つ上の先輩で歩ちゃんと同じ学年だ。
どうも親との折り合いが悪いらしく、わざわざ自分の家と離れたうちの学校に来て一人暮らししているらしい。
そう言った複雑な家庭環境のためか、半グレのような連中と付き合っているという黒い噂が絶えなかった。
遠目に見て心配だったが、梨沙の手前はっきり言うこともできない。
そうしているうちに僕たちと少し離れて登校していた優子ちゃんも一緒に登校しなくなった。
しかし、日常とは何もなくても過ぎていくものだ。 僕と梨沙はやがて学校行事やテストの準備のためにそのことを一時忘れていった。
しかし、今度は梨沙の元気がなくなった。
期末テストが終わった日僕は折角の高2の夏なのだから、一緒にどこかに行こうと梨沙に提案していたが、梨沙は目を伏せて、夏休みは用事が出来たので、一緒に行けないと言われた。
その日に僕は学校で洋次に会った。
僕は洋次が歩ちゃんと優子ちゃんと一緒にいるところをたびたび見かけていた。
つまりは・・・そう言うことなのだろう。
しかし、僕には梨沙がいる。 今までが特別だったと言うことだ。
洋次は「よう、色男。」と話かけてくる。
「こんにちは。先輩」僕はトラブルにならないように細心の注意を払って答える。
洋次は人懐っこい笑顔で僕に話しかけてきて、数分間話をしたが、特に攻撃的だったりすることはなかった。しかし、瞳の奥にいたずらっぽい光があることは感じる。
「それではこれで失礼します。」と言い、洋次と別れる。
あまり話していて気持ちの良い人ではない。
その間先生達が何人近くを通ったが、僕と洋次の方をじっと見ていた。
何か言いたそうな顔だったが、やはり今の洋次は特に噂が流れているだけで決定的な悪事を働いているわけではないため、何も言えないようだった。
そして、夏休みに入った。
洋次の章
俺は灰色の学校生活を送ってきた。
俺は父親との折り合いが悪く、家の中では強い孤独を感じていた。
家族みんなで出かける中、一人だけおいて行かれたり、実の父親ではないのかと思ったこともあり、いろいろと調べてみたが、わかったことは、血のつながりがあってもそりが合わないことはあるという事実だけだった。
俺は高校に進学するときに、わざと県外の遠い進学校に進学し、一人暮らしを始めた、 そして、心の隙間を埋めるようにあまり評判の良くない連中とも付き合うようになった。
幸い、俺は要領がよかったので、そういう連中のなかでも特別な地位を占めることが出来、ある程度の自由が許されている。
普通の家庭でのほほんと暮らしている連中は見ればわかる。
そういう連中は大嫌いだったが、うまく付き合っていく程度の演技は出来るくらいの頭があったことは幸いだっただろう。
俺は、親との関係が微妙だったため、相手の気分や機嫌、気持ちを察することに長けていた。
そういったものが無ければ、折り合いの悪い父親にやりたい放題に踏みにじられていただろう。
益体もない無駄な思考を中断して現実に戻ると、目の前に一組の男女と少し遅れて二人の女子が通り過ぎていく。
一人は梨沙と言う女子で学校でも評判の美人だ。
となりの奴は[僕]と言う名前で、コイツも秀才で通っていた。
後ろの二人はおそらく前の二人の友達なんだろうが、どうも表情が冴えない。
もちろん二人とも笑っているが、全身から発する覇気のようなものがかなりよわかった。
恐らく、前の二人との間の恋愛競争に敗れたのだろう。
後ろの女子の二人のうちの一人は面識がある。
尤も向こうが知っているかどうかは怪しいところだが。
こういうことでもなかったら、絶対に近づこうとは思わないタイプだ。
名前は確か歩。 クソ真面目で融通が利かないなんの面白みもない女だった。
俺は何かの役に立つかもしれないので、このことを頭にとどめておく。
良くいる不良のように俺は授業をサボったりは絶対にしない。
親との関係が微妙なので上げ足を取られるようなことは絶対にできなかった。
授業をすべて終わると、俺は今朝みた歩を注意深く観察する。
いつもはこんな奴には興味を持たないが、食いつくところを見せた獲物として考えるとそれなりに利用価値があった。
後をつけてみた。 すると、まっすぐに帰らないようだ。
方向から行っても図書室に寄るのだろう。
図書室に入っていく歩をそのまま追って俺も図書室に入る。
席に置いたカバンのポケットにハンカチを見つけるとすり取る。 偶然を装って、歩の近くに行き、ハンカチを落としましたよと言って、渡した。 すると歩は驚いた顔をして、「ありがとうございます。」と言った。
俺は「同じクラスなのに今まであまり話したことがありませんでしたね。」そう言って人懐こい笑顔を見せる。
この笑顔は鏡の前で何度も練習したので自信があった。
下心を感じさせない純粋な笑顔だ。
こうして、話しかけるきっかけを作ると、あらかじめ用意していた取るに足らない質問を繰り返して、歩の情報を集める。
ただし、もちろん急ぎはしない。
今日のところは歩の情報をできるだけ集め、帰ってから情報を整理して攻略方法を考えることとした。
歩が帰るようなので、一緒に帰ることにした。
「意外です。もっと怖い人なのかと思いました。」歩がそういう。
実際はその通りなのだが、「あれは無責任な人たちが勝手に言ってるだけですよ。僕はただの歩さんと同じ学生でクラスメイトなんだから、そんなわけないでしょう。」と言う。
もちろん細心の注意を払って作った無邪気なつくり笑顔で。 そうしてその日、俺たちは別れて帰宅の途に就く。
それから数回図書室で歩と話をする。
話す内容は前回のとりとめのない会話で集めた情報をもとにしていく。
出来る限り歩の言葉を肯定するが、時々、間違っていることは間違っていると諭す。
そして、それは歩本人のためを思って言っていると嘯く。
それから数日後俺はすっかり歩に信頼されていた。