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「やっぱ、やってみようぜ」巧はそう言った。 僕らは夏休みのアルバイトを探していた。
電話の相手は巧。同じ年の僕の友達だ。
僕は都内の大学二年生で、巧は社会人と言えば聞こえはいいが、フリーターだ。
一見すると接点がなく、性格も対極的な僕らだが、妙にウマがあった。
巧は良く言えば細かいことは気にしない大胆なタイプ。
悪く言えばちゃらんぽらんでいい加減だ。
僕は細かいところを気にする神経質なタイプだ。
大学生とフリーター、どうしてこんな全く違う世界にいる者同士が友達になったかというと、それは彼女が友達同士だったからだ。
お互いに付き合い始めてから紹介され、それからちょくちょく会うようになった。
最初は何かにつけて衝突することもあったが、一旦分かり合うと、どこで引いたら相手と衝突しないかと言うラインがわかってきて、それからお互いにそのラインを超えないような絶妙な関係を築いている。
ぶっちゃけた話、昔からの友達よりも巧のほうが気が合ったし、一緒にいて楽しかった。
もちろん楽しい理由が互いの彼女同士が友達と言うのもあって、ほとんどいつも彼女と一緒だったからだ。
電話は夏休みのバイトをどうするかと言う話だった。
僕らは共通点と言うものはほとんどないが、金がないことはだけは一緒だった。
まあ、まだ大学生なので、家がよほどの金持ちでない限りは大方金回りは良くない。
今回のアルバイトは小さな海水浴場がある浜辺でバイトで10日間、最後までやると一人20万円もらえるという話だった。
しかも賄いつきで宿泊代も出るので、生活費などは一切かからない。
これだけのバイト代がもらえるからにはからくりが当然ある。
やたらときついらしいのだ。
応募するときは身長と体重を記入することになっている。
持病があると不可、健康でなければダメらしい。
巧が電話して聞いたところによると、今まで何人も逃げているらしい。
前までは一人15万だったらしいのだが、あまりにきついので逃げる人が続出し、とうとう20万円まではねあがったとのこと。
また、現地には公共の交通機関があまりなく、自家用車がないとほぼ絶望的と言うのもバイト代が高くなる理由の一つのようだ。
内容は単なる荷物運びなのだが、車が入っていけない山道を何度も往復する必要があって、かなりきついといわれたそうだ。
しかし、たったの10日間で20万円はかなりおいしかった。
場所は東京から少し離れた海水浴場で、あまり有名なところではない。
さらに、海の家のウェイトレスも同時に募集しており、夫婦やカップルも歓迎とある。
巧が電話で聞いたところによると、こちらはオマケのようなものらしい。
日中はそれなりに人も多いが11時から18時程度迄で暇な時も多いとか。
こちらは1日8000円だった。 夫婦やカップルで来る場合は彼女とバイト代でケンカしないようにと笑って言っていたらしい。
巧はかなり乗り気だが、僕は引いていた。
巧は僕を熱心に説得している。
結局、僕は巧に押し切られる形で、バイトすることを了承した。
まあ、こう言うと渋っているように見えるがたったの10日我慢するだけで20万円と言うのは僕にとっても魅力的だった。
僕も体力にはそれなりに自信があったので、
互いの彼女に相談したうえで一緒に応募することにした。
一応全員の写真をスマホで取ってネットの応募フォームで応募する。
何かこの辺だけ妙に進んでいるが、どうもこの村の若手の人たちが中心になってやっているらしい。 そうそう、僕らの彼女の紹介もしておこう。
僕の彼女の結里はクール系のスレンダー美人だ。身長は160cmくらい。
そして巧の彼女は由貴子ちゃんと言って身長は小さいが胸はかなりデカい。
結里よりもかなり大きく、結里の前で由貴子ちゃんの胸を僕がほめるのは一種の禁句になっている。
それをやると暫く彼女のご機嫌を取ることになった。
2人は昔からの友達同士で僕と巧を引き合わせるきっかけを作った。
僕は大学生で車なんてもちろん持ってないので、巧の軽自動車で4人で行くことになった。
車は中古のおんぼろだが、現地に行くには何の問題もない。
僕らはこのバイトで夏休みの残りの期間を満喫するために、期待に胸を膨らませながら、現地に向かった。 集合場所には村の人が迎えに来るとのことだった。
集合場所に行ってみると、僕らのほかには誰もいなかった。
どうやらよっぽどきついらしい。
「顔とかわかるのかな?」と僕が聞くと、「ほら、スマホで写真送ったじゃん」と巧が返す。
「そっか・・・」と僕が言うと、がっしりとした一人の男の人が手を上げて近づいてきた。
年は僕らより4-5歳は上に見える。
「君らがアルバイトしてくれる人?」男の人にそう尋ねられる。
「はい、僕らがバイトに応募した4人です。」
「そっか、電話でも言ったけど、男性の方はかなりきついから頑張ってね。」
僕と巧は顔を見合わせてから「頑張ります」と言った。 僕らは村にある民宿で男女に分かれて二部屋借りることになった。
もちろん無料だ。
一応、カップル同士で使ってもよいと言われたが、男の仕事と女の仕事は時間帯もきつさも段違いなので、女同士、男同士で別れたほうが生活のリズムが合うのでお勧めと言われた。
民宿の部屋はかなり豪華でお風呂もかなり豪華なお風呂を使ってよいと言われた。
「ものすごい待遇ですね。」と僕が迎えに来た男の人に言うと、「このくらいしないとみんな逃げちゃうんだよ」と笑いながら言われた。
「君たちは最後まで残ってくれよ」と割と真剣に言われたのでかなりきついと言うのは本当なんだろう。 そして僕らは民宿で夕食を食べ、次の日からバイトすることになった。
僕らは6:00-16:00くらいまでだったが、これがきついのなんの。
僕らはバイトが終わるころにはかなり参ってしまい、その日は20:00くらいには寝てしまった。
寝てしまったというより、起きていられなかった。
結里と由貴子ちゃんとはちらりと顔を見たくらいで、ほとんどすれ違いだった。
次の朝も早い。
5時起きして無理やり朝ごはんを食べる。
2人はもちろん起きてない。
村の男の人たちは僕らを見てにやりと笑い「きつかっただろう。続けられそうかい?」と聞く。
僕らは「当然行けますよ」と強がった。
ここまで来たら意地だ。
そして、僕らはバイトを続ける。
途中で結里と由貴子ちゃんが何か言いたそうにしていたが、バイト期間がが終わってから聞いておこう。 とにかくきつい。
バイトも後半に差し掛かると疲労のピークになり、僕らにそんな余裕はなくなっていた。
村の人も僕らの顔を見て「もう少しだから頑張れ」と言ってくれた。
そしてバイト期間が終了した。 僕らが最後まで頑張ったので、バイト代には色を付けてくれた。
村の人は「最後までやりきるとは思わなかったよ。」と言って握手を求められる。
僕らは少し誇らしくなった。 そうして僕らは夏を満喫する軍資金を手に入れたのだが・・・・。
結里と由貴子ちゃんの表情はさえない。
僕と巧も帰り道はかなり疲れていたので、言葉が少なめだった。
そのため、その時は気が付かなかったのだが、バイトが終わってからも少し変だった。
そして、いろいろと予定を立てようと思い。
何度か連絡を取ってみたのだが、実家の方で急用ができたとのことだったので、その夏休みはほとんど会えなかった。
折角、バイト代を手に入れたというのに全く冴えない話だった。
しかし、それ以降も結里とはほとんど会えなくなった。
会おうとして連絡を取ると、用事があると言って断られる。
明らかに避けられているのが分かった。 僕は巧に相談することにした。
すると、巧も由貴子ちゃんと同じように避けられているとのことだった。
「しばらく様子を見よう。今無理やり会っても拗れるだけじゃないか。」と巧は言うが、僕は釈然としなかった。
そのため、無理に時間を取って結里と会うことにした。
ファミレスで結里と会ったが、そこで結里から別れ話を切り出される。
僕は納得ができないと食い下がったが、結里の意志は固く、話が終わると立ち去って行った。
巧の言う通りだったのか・・・。
僕は自分の迂闊さを呪った。
しかし、巧もそれからしばらくして由貴子ちゃんから別れ話を切り出されたと言っていた。
僕らは結局、2人とも振られたわけだ。
納得はできなかったがどうしようもない。
何が悪かったのか考えてみたが、やはり思い当たる節はない。
何かが変わったとしたらあのバイト以降だろう。