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僕は漁師の町で生まれた。
だけど、別にうちは漁師ではない。 漁師の町と言っても、漁師だけしかないということはない。
もちろん漁師が多いのは確かだけど・・・・。
僕の悪友で憲二という奴がいた。
子供のころから一緒に遊んでいて、いろいろないたずらなんかもしていた。
憲二には少し年の離れた姉ちゃんがいて、名前を清美と言った。
確か8歳差だったと思う。
僕は清美さんのことを清姉、清姉と言ってとても懐いていた。
憲二の家は母が早くに死んで、清姉が母親代わりだった。
憲二の家は漁師の中ではあまり裕福なほうではなかったが、子供心に清姉と手をつないて帰る憲二がうらやましいと思ったものだ。
清姉は色白でスレンダーな美人で、胸もとても大きかったと思う。
子供のころは優しいお姉ちゃんという印象しかなかったが、大きくなるにつれ、段々清姉を意識するようになった。
服の間からちらりと除く白い胸元や二の腕、大きな胸などを思い出しておかずにしていた。
最も年も離れていたので、向こうは僕のことを完全に子供のように思っていたようだ。
これが初恋というのであれば、清姉が僕の初恋の人だろう。
漁師の町では密漁はご法度だ。
特に漁師ではない僕みたいな家庭の子供が密漁にかかわると大問題になるので親にも口を酸っぱくして絶対に密漁はするなと言われていた。
しかし、漁師の子の中には小遣い稼ぎのために密漁をしている奴もいた。
「奴もいた」なんて言い方をしたが、やはり、こんな町でお金を手に入れる数少ない方法だったので、結構な割合でいたように思う。
そういうのはばれると子供でも容赦なく鉄拳制裁された。
40-50くらいの分別盛りのゴッツイオジサンたちが容赦なく子供をブン殴るので、一度ばれたらたいていはやらなくなる。
漁港のある所にはやくざがいないといわれているが、板子一枚下は地獄というように、毎日体を張って、時には命を張って仕事をする漁師たちは荒くれた人たちが多かった。
また、都市伝説のように、何かあっても細切れにして海に捨てたら証拠なんて残らないというような誰が言い出したのかわからないような怪しい話も残っている。
だから、やくざの出る幕なんてないというようなことがまことしやかに語られている。
僕は漁師の家庭じゃないし、直接見聞きしたわけではないので真実はわからない。
中三のころ、僕は憲二に誘われてバイトを始めた。 そのころ憲二は体も僕より一回り大きく、結構大人びていた。
町の郊外の目立たない加工場で、魚を白い発泡スチロールの箱に詰めたり、加工した魚をパッケージに詰めたりなどの軽作業が中心だった。
僕はこのバイトには誘われれば必ず行った。
なぜならかなりバイト代が良かったからだ。
今から考えれば、そこには何か理由があったはずだが、当時の僕はバイト代に目が眩んで、深くは考えなかった。
憲二はなぜかほかの漁師の子は誘わずに必ず僕を誘った。
僕は勝手に憲二とは親友だからだと思っていて、少しうれしかったし、誇らしかった。
そんなある日、憲二が学校にこなくなった。
僕や憲二は子供のころから悪ガキで通っていて、元気一杯、風もめったにひかないような悪たれだったので、珍しいこともあるもんだと思った。
しかし、普通だったのはここまでで、憲二が学校を休んだ日の帰りに僕は若手の漁師のIさんに呼ばれた。
漁師たちのたまり場の集会所みたいな場所に、今まで何度か会ったことのある漁師の元締めのような立場のおじさんたちが何人か座っていて、みんなピリピリしている雰囲気が僕にも伝わり、思わず緊張した。
話の内容は憲二から誘われたバイトのことで、僕はとても割のいいバイトなので誘われたらいつも欠かさず行っていたこと、口止めされていたけど、割のいいバイトだから、競争になるからだと思っていたことなどを話した。
オジサンたちは僕の説明を聞くと、出て行って別の部屋に行った。
僕はIさんにしばらくこの部屋で待つように言われた。
Iさんはなぜか僕をきつい目で睨んでいて、生きた心地がしなかったことをよく覚えている。
やがて話し合いが終わった。
僕は一応、そのまま帰されたが、Iさんが僕を送ってくれた。
その道すがら何があったのかを聞いてみた。
憲二が僕を誘っていたバイトは町の外からの密漁しに来た業者だったらしい。
僕はそれを聞いて、憲二がほかの漁師の子たちのように密漁で鉄拳制裁を受けたのだなと思った。
僕はIさんに「密漁ならほかの子もやっていますよね」と聞いてみた。
しかし、話はもっと深刻なようで、密漁にしては工場を持っていて、かなり規模が大きかったことと、かなりの長期間やっいたこと、そして、憲二のおやじさんもお金を受け取っていたことなとが大問題になったらしい。
この話は単に子供の密漁という話だけではなく、町の漁師の間で大問題になって、町がひっくり返るような騒ぎになっているとのことだった。
僕はその話を聞いて真っ青になった。
そしてIさんに謝る。
「すみませんでした。」
「いや、君は何も知らずに誘われただけのようだから大して問題にはならないよ。 知っていてやっていたら鉄拳制裁されていたかもしれないけど、」とIさんは笑っていった。
怖かったのは顔は笑っていたが、目が笑っていなかったことが子供の目にもわかったことだ。
おそらく、Iさんも相当頭に来ていたんだろう。
多分僕が許されたのは、漁師の子じゃなかったのも大きかったんだと思う。
漁師の子だったらきっと憲二と一緒に鉄拳制裁されていただろう。
それ以上は何も聞けなかった。
僕は家に帰ってから両親にもバイトのことを聞かれ、もう二度としないようにと釘を刺された。
両親もバイトを許可した手前、それ以上は言わなかった。
そして、今後、憲二とは付き合わないように念を押して言われた。
家に帰ってからすぐにバイトの話を聞かれたということは事前に連絡が行っていたのだろうし、大問題になっているというのは本当のようだった。
憲二とはもう二度と付き合わないように言われた僕だったが、ほとぼりが冷めたらそのうちまた元に戻ると安易に考えていた。
この時の僕は事態の本当の深刻さに気が付いてなかった。
そして、この時、自分が如何に危ない立場にあったのかも理解していなかった。
あれからしばらくたっても憲二は学校に出てこなかった。
ほかの漁師の子たちの間でも憲二の話はタブーになっていて、聞けない雰囲気だった。 試しに一度少し話を振ってみたが、みなその話題が出ると避けるように話をそらした。
僕はだんだん憲二がどうなってしまったのか気になっていた。
そして、憲二の家に行ってみることにした。
しかし、憲二の家は表面的には特に変わりがなく、強く止められている憲二に会いに行く思い切りも持てなかったので、その日はそのまま帰った。
それから数日後、相変わらず憲二は学校に出てこない。
何度か憲二の家の近くまでは行っていたが、人目に付いたら困るので、遠巻きに見るだけで何もできなかった。 日に日に僕は憲二が今どうしているのか気になっていた。
憲二がこんなに長期間、学校を休んだことなんてない。
僕は思い切って自宅の自分の部屋から夜中に抜け出し、憲二に直接会おうと思った。
そして、夜中、僕は靴を準備して自分の部屋を抜け出し、憲二の家に向かった。
憲二の家の目の前につくと、清姉が家から出てくるところだった。
どうやら、外出するところだったらしい。
こんな時間に珍しいと思い、思わず目で追った。
街灯に照らされて清姉だけに見えたが、良くるみと何人かの男たちが周りにいた。
遠目ではっきりわからなかったが、男たちの一人は見たことのある漁師だった。
ほかの男たちもそうなんだろう。 その男たちに連れられてどこかに行くようだ。
僕は憲二に会うことよりもこんな時間に清姉がどこに行くのかに興味がわいた。
そして、距離を取って、後をつけてみることにした。
素人が距離を取って尾行なんてできるのかと思う人もいるかもしれないが、狭い漁港しかない港町で、夜中には人なんてほとんど歩いていない上に人が集まることができる場所も限られていたので、大体の方向が分かればどこに行くかは見当がついたし、見失うことはなかった。
しかし、当時の僕はやはり子供だったので、緊張した。
夜になるとほとんど歩いている人もいない田舎の町の中なので誰かに見つかったらほぼアウトだ。
僕は緊張で心臓の鼓動がはちきれそうになるくらい高まるのを感じていた。
異常な緊張ですぐに息が上がるが、清姉がいることもあって歩く速度はあまり早くなかった。
そのため何とかついていくことができた。
清姉と男たちの目的地は僕がこの間呼ばれた建物だった。 漁師たちの集会所のような場所だ。
何か正式な名前があったと思うが、忘れてしまった。
目的地がわかったが、これからどうしようかしばらく迷った。
常識的に考えればもう帰った方がいいだろう。 どう考えても見つかったらただでは済みそうにない。
しかし、清姉と漁師たちはただならぬ様子だった。
何をしているのかがわかれば憲二ともう一度会うこともできるかもしれない。
僕はすでに憲二には二度と会えないのではないかという予感がしていた。
だからこそ、夜中に抜け出して会いに行こうとまで考えたわけだが・・・。
ただの密漁騒ぎにしては、いくら何でも周りの反応が異常すぎる。
さすがに、子供のころから一番仲の良かった憲二に「ごめん」も「さよなら」も何も言えずに別れるのは寂しすぎると思った。
僕は建物の裏手に回って様子を見てみることにした。
建物の裏はすぐに港でもっと言えば海なので、カーテンなどはかかっておらず、ほとんど無警戒だった。 僕は窓からこっそり中をのぞいてみた。