三葉の君へ ~転校先で出会った三人の美少女~(前編) 本記事
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中学生編
僕の一家は父親の転勤であちこちを転々としていた。
僕は学校に馴染めず、母もノイローゼになり、離婚した。
母は僕を引き取らなかった。
中学2年の春僕はとある歴史のある町に父と一緒に移住することになった。
父は離婚を機会に転勤を断り、出世コースから外れた。
父の処遇は今から考えると制裁人事だったんだろう。
とても難しい土地柄で、そこに転勤させられた本社の社員は高い確率で辞めてしまうという曰くつきの支社だった。
当時の僕はそんなこと知る由もなく、「もう転校しなくて済む」という話に少し希望を見出したところだった。
もう転勤はないというこの町で僕ら一家はマンションを買った。
父は仕事で先乗りして、引っ越しが終わったら僕は後から一人で電車で引っ越し先に向かうことになった。
こういうのも今までは普通だった。
そこに初めて降り立ったとき、どんよりと曇っており、鈍色の空を見ながら、神様を少し恨んだりもした。
これからせっかく良いことがありそうなのに、こんな天気はないだろう・・・。
僕は今まで父の転勤を理由に、部活も入ってなかった。
今度こそ何かやってみよう、僕はそう思った。
初登校の日、僕はまず職員室に行ってから先生と一緒に教室に向かった。
先生が教室に入ると僕だけ引き戸の外に待機させられる。
「今日は転校生を紹介する。」
教室がざわざわとざわめくのが扉越しにも分かった。
「よし、白石、入ってこい」
そして、僕は教室にはいる。
教室中の視線が一気に僕に集まって僕は緊張した。
教壇の先生の横に立つ。
「白石健介です。よろしくお願いします。」
転校生ならだれもが通る自己紹介を済ませた。
ざわざわと教室がざわめく。
今度こそ腰を落ち着けて頑張れる。
僕はこの時そう思った。
放課後
先生はホームルールが終わる時に一人の女子生徒に僕に学校の案内を頼んだ。
「夏芽君、君、生徒会役員だったよね?白石君を案内してもらえないか?」
「わかりました。白石君。わからないことがあったら何でも聞いてね」
夏芽さんはなかなかかわいい女の子だった。
勝気そうな顔で胸もそこそこある。
僕は夏芽さんに校内を案内されながら、雑談をする。
「はい、ここが最後よ。体育館ね。まだ部活が始まるには時間があるのであまり人がいないけど、そのうち人がいっぱいになるわ。」
「白石君は何か部活やってたの?」
「いや、父さんの都合で転勤が多くて、今まで腰を落ち着けて何かをやる機会がなかったんだ。」
「そう、大変だったね。」
「何か今から始めても問題ない部活があればいいんだけど」
「入るのはできると思うけど、スポーツは小さいときからみんなやってる人が多いから、今から始めるのは厳しいかなあ。もう人間関係が出来上がっているし。」
「そうか、そうだよね。父さんはもう転勤しなくていいからここで何か始めたかったんだけど。」
「そう、じゃあさ、生徒会に入らない?」
「生徒会?」
「私ね、生徒会の役員なんだ。大変だけど、やりがいはあるわよ?」
「生徒会かあ・・・思ってもみなかったな。ちょっと考えさせてもらえるかな?あ、校内の案内、ありがとう。」
そう言って夏芽さんとはそこで別れた。
いろいろと考えた挙句、僕は結局生徒会に入ることにした。
理由は、やはり今から部活というのは厳しいだろうと思ったからだ。
僕は夏芽さんに生徒会に入ることを伝えると、その日の放課後、生徒会室に連れて行ってくれた。
生徒会室には2人の女の子がいた。
夏芽さんと合わせると3人だ。
「こんにちは、白石君。私は会長の菜月よ。菜月葵。よろしくね。」
菜月と名乗った女の子はスラリとした体つきをしており、胸が大きい。
僕はその大きな胸に釘付けになった。
そして、驚くほど整った顔立ちだった。アイドルでもここまでの美少女はそうはいないだろう。
夏芽さんから突っ込まれる。
「ちょっとー、どこ見てるの?」
「あ、ご、ゴメン。」
「こんにちは、私は会計の植草こころです。」
[こころ]と名乗った女の子はツインテールが似合うちょっと幼い感じの子だった。
胸はかなり小さいが顔はかわいい。
「そして、私が副会長の夏芽優月よ。よろしくね。」
「あと二人いるんだけど、今日は来てないからおいおい紹介するわ」
この日は簡単な荷物を運びを手伝ってそのまま帰った。
3人は他に用事があるようだった。
優月視点
転校生は早々に帰した。
「どう?あいつ?」
「分からないわ。でも真面目で誠実そう」
「小神家のひも付きでない男子って貴重だからね。転校生だから万が一にも小神家と関係してるってことはないはずよ。」
小神家はこの町に昔からある名家で、もとは大名家だった。明治維新や近代化、第二次大戦の荒波をうまく乗り切って一大勢力を築いている。
この町で何かをするならまず小神家に話を通さない限り何もできない。基本そういう話は通らないし、おいしいところはすべて小神家が持って行ってしまう。
そう、私たちの代の生徒会は同世代に小神家が在籍しているにも関わらず、女子である私たちが生徒会役員になり、小神家の関係者から大なり小なりのいやがらせを受けてきた。
特に、露骨なのが男子生徒を生徒会にスカウトしようとすると小神家の子分が脅しをかけることだ。
ほんのわずかの脅しでもみんな逃げて行った。
この生徒会には男手が足りてなかったのだ。
私たちのボディガードとしてはちょっと小柄で貧相で背が小さいけど・・・
王子様というより弟って感じだけど、この際贅沢は言ってられない。
「そうね。しばらく様子を見ましょう。」
「[こころ]はどう?」
「私は別に・・・・。でも真面目でいい人そうだね」
「そうねぇ。いい人と言えばいい人なんだろうけど、そういう男って頼りにならないのよねぇ。」
後日私はこの評価がまったく違っていたことを思い知らされるのだが、この時は私たちは白石君はあまりあてにならないけど、とりあえずキープした貴重な男手程度の認識だった。
白石視点
この日から僕は生徒会の一員として、忙しい日々を送ることになった。
学校の成績は良いほうだった。
転校によって勉強の進度はまちまちだったのでかなり早めに予習をしている癖がついていたからだ。
頻繁な転校で部活はできなかったので、せめて勉強だけは・・・と思い頑張て来た悲しい副産物だった。
しかし、先生からは勉強の成績が良く、生徒会にも入ったので信頼できる生徒として一定の信用を得た。
ある日、クラスメイトの一人から話しかけられる。
僕は怪訝な顔で聞き返す
「よう、転校生」
「君は?」
「ああ、俺は 岡 和文 よろしくな」
「岡君。よろしくね」
「お前、生徒会に入ったの?」
「せっかく誘われたからね。」
「おお、三葉の君のお眼鏡にかなったのは凄いな」
「三葉の君?」
「三葉の君ってのは葉月葵、夏芽夕月、植草こころの3人のことだよ。」
「へーえ、なんでそんな大層なあだ名がついてるの?」
「3人とも美人でかわいくて、運動も勉強もできるからだ。そして、名前や苗字に植物に由来する漢字が入ってるから
誰が言うともなく呼ばれるようになったんだよ。」
「確かにそうだね。面白いなあ。」
「はは、お前もそのうちあの3人の凄さがわかるさ。」
昼休み時間、僕が岡君と廊下を歩いていると、
「おい、端っこによれ。小神だ。」
僕は廊下の端によると髪を金色に染めてオールバックにした時代錯誤のものすごいヤンキーが通り過ぎて行った。
「す、凄い人だね。」
「ああ、この辺一帯の地主で実業家のボンボン、小神鉄心だ。ヤンキーであちこち問題を起こしてるんだけど、親が金持ちで権力者だから全てもみ消しちまう。
お前が転校してくる前、正義感の強い新任の先生が小神をしつこく注意したんだが、闇討ちされちまった。金属の棒で滅多打ち。警察も適当に捜査して犯人不明のまま終わりだ。
後ろの二人は小神警備の社員の息子、将来の幹部候補ってところだな。
鉄心の懐刀で格闘技もやってる。こいつらが滅法強いからお前も気をつけろよ。
荒事になったら絶対に敵わないぞ。」
「あ、あとあいつにも注意な」
目くばせをすると、メガネをかけた小太りの生徒が歩いているのが見えた。
「あいつは小柴だ。小柴明男。女子の下着を盗む変態といわれているが、いつも証拠不十分でお咎めなしになっている。
あいつも小神家の一族の関係者で小神に次ぐ上位に位置するらしい。」
「この辺一帯は小神家が取り仕切っている。小神家が白といえば黒いものも白になる。
俺ら一般人が絶対にかかわってはいけない人種だ。お前も注意しろよ。」
「はは、僕はかかわることはないよ。どうってことない人間だし。」
「そうだったとしても注意しろよ。小神家はものすごい優等生とあいつらみたいなどうしようもないヤンキーや不審者と両極端に分かれる。当たり外れが激しくて、俺らは外れの世代だ。」
そういう岡君の顔は苦り切っていた。
よほど、手ひどい被害に遭ってきたんだろうな・・・注意しないと。
岡君は人当たりが良く、学校では事情通として通っているようだった。
僕はとりあえず岡君と友達になった。
もっとも彼には友達がたくさんいるようだったが・・・・。
小神かあ・・・そういえば父さんもここは地元の有力者が取り仕切ってるから難しい土地だと言ってたなあ。
僕はその時そんな風に考えていた。
この時はこれで終わったが、小柴明男に関してはこんなことがあった。
ある日、生徒会室に行く途中でこころちゃんに会った。
こころちゃんは青い顔をしている。
「どうしたの?」
こころちゃんは目配せをすると小柴明男がこちらを見ている。
僕をものすごい目で睨んでいた。
「ずっと後をつけてくるの。私怖くて。白石君。生徒会室に行くなら一緒にいこう?」
「分かった」
僕は小柴からこころちゃんを隠すように盾になる。
小柴の目つきが一層厳しくなったが。
ずっと後をついてくるので小柴明男に僕は話しかけてみることにした。
ここまでしつこいのは常軌を逸している。
さすがに何らかの注意や警告をすべきだと思った。
「僕は生徒会庶務の白石慎吾と言います。僕らに何か用かな?」
少し離れた場所にいるこころちゃんが心配そうにこちらを見ている。
「お、おまえNTR男だな?。僕とこころちゃんの仲は引き裂けないぞ。」
NT・・・なんだって?
「あの、何のことなんだろう。僕は生徒会室に行く途中なんだけど。」
「ち、調子に乗りやがって、覚えてろよ白石、俺はお前の名前を覚えたぞ。」
そう言って小柴明男は立ち去った。
見事に会話が成立しない。
「こころちゃんはあの男と知り合いなの?」
「全然、話したこともないよ。」
「そうなの?何か知ってる風だったけど・・・」
「私ね、体操服とか制服とかもう3回も盗まれてるんだ。それでああやって時々付きまとわれると怖くて。」
「わかった。僕は夏芽さんと同じクラスだから、何かあったら僕のクラスにおいでよ。大したことはできないかもしれないけど、一緒にいることくらいはできるよ。」
「ありがとう白石君」
「どうってことないよ。また何かあったら言ってよ」
「ふふ、頼りにしてるわ。」
そうして僕らは二人で生徒会室に向かった。
岡君が言ってたとおり、僕は次の月期末テストで三葉の君の3人の成績がすさまじいことを実感した。
けど、僕も意地を見せて、彼女らに次ぐ4位だった。
テストの結果発表の後、HRで先生から褒められた。
「白石君。君、凄いね。菜月君、夏芽君、植草君について4位だぞ。」
クラスから「おおー」という声が上がる。
僕は少し照れ臭くなって
「たまたまです。転校前の進度が早かったからですよ。」
「そうか、今後も頑張るように。」
パチパチパチ
クラスから拍手が沸き起こる。
それからしばらく経った、ある時、、少し遅れて生徒会室に行くと3人はすでにきているようだった。
ドアの外で話し声が聞こえたので耳を澄ますと・・・。
「えーっ。こころちゃん、あいつのどこがいいの?」
「・・・・やさしくて頼りになるところ。」
こころちゃんがかなり照れながら話していた。
「でもあいつ、葵のおっぱいが好きだよね。あいつは明らかに私たちに釣り合ってないと思うけどなあ」
「ちょっと優月ちゃん?」
「ごめんごめん、でも葵のおっぱいは凄い武器だと思うよ。どんな男でもイチコロじゃん。」
夏芽さんの辛辣な言葉が胸に突き刺さる。
釣り合ってなくて悪かったな。
僕はわざとらしくドアをノックした。
コンコン
「ヤバッ」
夏芽さんの慌てる声が聞こえた。
僕は何食わぬ顔で生徒会室に入る。
「こんにちは、少し遅れました、すみません。」
夏芽さんはしばらく僕の様子をうかがっていたがばれてないと踏んだのか普通に話しかけてきた。
何もなかったように振舞う。
僕はこの日常を大切にしようと思った。
そうして夏休みが終わると、学際の時期がやってきた。
生徒会も学際の仕切りで忙しく飛び回ってきた。
学際を前日に控えた日・・・
一人の生徒が血相を変えて飛び込んできた。
「大変です会長、小神君が・・・」
「落ち着いて、何があったの?」
どうも、この生徒によると小神君が仲間を二人連れてバイクに乗って学校の正門に現れたらしい。
そして、学際の飾りつけなどを破壊しているらしい
手が空いていた僕だけですぐに現場に向かった。
そこには小神君と体格の大きい二人の手下が金属バットを手にもって暴れていた。
二人の手下は小神警備という警備会社の社員の息子らしい。
小神警備は小神家が持っている荒事専門の会社で表向きは警備会社を装っているがその実はヤクザと変わらない札付きの集団だった。
僕はパッとしない自分が生徒会役員に勧誘された理由にこの時始めて気が付いた。
きっと弱くても大して役に立たなくても小神家に対抗するための手札が欲しかったんだろう。
僕は特別じゃない。
そう気が付いたとき、僕は恐怖で頭がおかしくなりそうになった。
これからたった一人で小神鉄心と手下の筋骨隆々の二人と対峙するのだ。
「あの・・・」
「ああ、なんだテメェは」
金髪のヤンキー、小神鉄心が僕に凄む。
手には金属バットを持っている。
どこの昭和から来たんだコイツ。
「僕は生徒会庶務の白石です。すみませんが、今すぐバイクをどけて学校の敷地から出て行ってくれませんか?」
「はあ、テメェ俺に命令しようってのか?」
「命令ではありません。あくまでもお願いです。」
「ハッ嫌だね。ほら、どーする生徒会。」
「お願いします。出て行ってください。」
僕は必死に頭を下げた。
◆ ◆ ◆
僕は小神君にも勝てないだろうが、後ろの二人は暴力で対抗するには絶望的な体格差だった。
この時の僕は恐怖でチビってしまいそうなほどビビっていた。
しかし、生徒会役員として仕事を任された責任感が辛うじて僕を絶望的な体格差のある3人の前に立たせていた。
「出ていってほしかったら土下座しな。だったら考えてやってもいいぜ?」
「お願いします。出て行ってください。」
僕は躊躇なく土下座した。
プライドもヘッタクレもない。
「ヤダ・・・ダッサ」
まわりで見ていた女子生徒の声が胸に突き刺さる。
しかし、今の僕にはこれしかできなかった。
ギャラリーはどんどん増えて行っていた。
「テメェ、白石、簡単に土下座なんてしやがって。プライドはねぇのか?それでも男か?」
小神君が土下座する僕の頭を踏みにじる
手下に目配せすると、レスラーのような体格の二人も僕の背中を足で踏みにじった。
しめた、僕はこの時そう思った。
手下の二人はどう考えても普通でない体格をしていたが、本気で僕を踏みにじっているわけではない。
本気なら小柄な僕など即病院行きだろう。
きっと付き合っているだけでこの行為にもあまり関心はないのだろう。
飽きたり疲れたりしたら満足して出ていくかもしれない。
僕がプライドを捨てればこの場が収まるなら安いものだ。
しかし、そこに葵ちゃんたちがやってきた。
最悪のタイミングかなと思った。
「生徒会のメンバーに何しているの?今すぐ乱暴をやめて出ていきなさい。」
葵ちゃんは僕と小神君の間に入ってにらみ合う。
こころちゃんは土下座の姿勢のままの僕の背中をやさしくさすった。
「大丈夫?白石君」
泣きそうな声で呼びかけてくれた。
優月ちゃんはもう一人の手下の筋肉マンとにらみ合っている。
でもこれは悪手だ。
「三葉の葵か・・・」
小神君は葵ちゃんを憎らし気な目で睨んでいた。
ヤバい、僕はとっさにそう思った。
小神君が目配せをすると、こころちゃんは筋肉マンの一人に胸倉を掴まれた。
小柄なこころちゃんは軽々と片手で釣り上げられ、足が30cmくらい浮き上がった。
優月ちゃんも髪の毛をグーでわしづかみにされ、頭を後ろに引っ張られている。
そして、小神君は信じられないことに金属バットを葵ちゃんにむかってフルスイングした。
僕はとっさに間に入った。
前に出たのが幸いして、かなりバットの根元にあたったが、僕の左腕にボキッという嫌な音とともに激痛が走った。
折れた・・・・な。
左腕がダランと下がる。
僕は折れた腕を抑えながら必死に痛みに耐えた。
「これで気が済んだでしょう。お願いします。帰ってください。」
僕はそう言ってもう一度頭を下げる。
「帰れ、小神」
いつの間にか集まったギャラリーから小さく声が上がる。
100人以上はいるかもしれない。
「ああん?」
小神君が凄むと声を上げた人は下を向いて黙ってしまった。
しかし・・・・
「・・・帰れ」
「・・帰れ」
「・帰れ」
「・帰れ」
小さかった声はだんだん大きくなり、数が増え言った。
「帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!」
最後には大合唱になった。
「雑魚どもが調子に乗りやがって」
小神君たちはその勢いに押され、あたりを見回し、慌ててバイクにまたがって逃げて行った。
声を上げた群衆を見てみると、岡君が僕に向かってサムズアップしていた。
「大丈夫?白石君。助けに入るつもりが逆に助けられてしまったわね。」
と葵ちゃん。
「びっくりしたわ。君が無事でよかった。」
優月ちゃんも珍しく涙ぐんでいる。
こころちゃんは何も言わず僕の胸にしがみついて泣いていた。
僕は救急車に乗って病院に行った。
3日間入院してギブスをつけられてしばらく生活に難儀することになった。
もちろん学祭には出られなかった。
最後まで先生達は職員室から出てこなかった。
大人でも理屈やルール、法律が通用しない小神家が怖かったのだ。
三日後、僕は退院して、午前中の2限目から授業に出ることになった。
静まり返った校舎に入る。
いつもと違った時間に登校するとなんとなく後ろめたさを感じ、うつむいて歩く。
階段を上がると信じられない光景を目にした。
僕の教室まで生徒が廊下の両脇にズラリと並んでいる。
まだ授業中のはずだ。
僕を・・・待って・・・いた・・のか?
僕の姿を見ると、
「パン、パン、パン、パン」
一定のリズムで手拍子が響く。
僕はそのリズムに乗るように歩を進める。
背筋がピンと伸びて自然と顔が前を向く。
「かっこよかったぞ、白石」
「学祭は無事に終わったぜ、お前のおかげだ」
生徒たちの手拍子はしばらく、終わることなく続いた。
先生たちは見捨てた僕に対する後ろめたさから、この時のことを制止しなかったし、何も言わなかった。
こうして後に「9月の英雄」事件として語られる一連の出来事は幕を閉じた。
後から父さんから聞かされたが、小神家から多額の見舞金が支払われたようだ。
父さんは断固として受け取りを拒否したが、会社から圧力をかけられ、何人もの役員がわざわざ東京からやってきて説得され、最後は受け取らざるを得なかったようだ。
小神家の力をまざまざと見せつけられる結果になった。
この日からしばらく、小神君は学校から消えた。
数か月後、小神君を学校で見かけた。
髪は普通の髪形になっていて、色も黒だった。
優月ちゃんと一緒に歩いていると小神君が僕のほうにやってきた。
優月ちゃんが身構えて、シャドーボクシングように、シュッシュッとパンチする振りをする。
「な、何よ?やる気?なら相手になるわよ?」
それ、やるの僕だよね?腕っぷしはからっきしなのであまり煽らないで欲しいんだけど・・・。
「悪かったな白石。この通りだ。許してくれ」
そう言って僕に頭を下げた。
そして立ち去って行った。
周りで見ていた人たちもポカンとしている。
それから「9月の英雄」が小神君を真人間に変えたと噂が立った。
そんなことがあって、僕の転校から解放された学校生活は充実したものだった。
思えばこの時が僕の黄金時代だったのかもしれない。
次の年、三年の学園祭、とっくに二年生が引き継ぎ僕らは生徒会役員からは外れていた。
みんな受験の準備で忙しかったが、学園祭の後夜祭でキャンプファイヤーにフォークダンスを踊った。
優月ちゃん、葵ちゃん、こころちゃんと順番に踊る。
「英雄さんは去年学園祭に出れなかったでしょう?フォークダンスくらい付き合ってあげるわ」
優月ちゃんはそう恩着せがましく言ってきたが、その目は優しかった。
「光栄です。姫」
「うむ、苦しゅうないぞ」
次に葵ちやんと踊る。
「白石君、私は君に言わないといけないことがあるの」
「いいよ、もう。小神君は誰だって怖い。先生も逃げたんだから女の子の君たちが何かにすがろうとするのは当然だ。」
葵ちゃんはうつむいてしまった。
「ありがとう。私は君に救われたわ白石君。」
暖かいキャンプファイヤーのオレンジ色の光に照らされた葵ちゃんの顔は上気しているように見えた。
最後にこころちゃんと踊る。
「一見すると普通に見えるけど、やっぱりあなたはすごい人。暴力の恐怖にも決して屈しない勇気のある人」
「ほめすぎだと思うけど、素直に受け取っておくよ。ありがとう」
三葉の君3人とフォークダンスを踊っている僕に周りの視線が集中したが、あまり気にならなかった。
「フフッ」
僕らは顔を見合わせて笑う。
あの時骨折してまで頑張ったご褒美としては悪くなかったかな。
こうして僕の中学時代は幕を閉じた。
高校生編
僕らは卒業して高校生になった、三葉の君の3人と僕は同じ高校に進学した。
ついでにいうと岡君と小神君も。
三葉の君の3人は高校生になってますます美しくなった。
ちょっと声をかけづらくなったほどだ。
僕らが高校に進学した年、世界的な病が流行り、世の中に大きな影響が出た。
家業が飲食店の葵ちゃんは大変そうだった。
そのほか、優月ちゃんやこころちゃんもお父さんの仕事が大きく影響を受けて生活が大変になったという話を聞いた。
こんなこともあって、僕ら元中学生徒会メンバー4人は高校では生徒会に入らなかった。
ほかの3人がやらないのでは僕一人でやってもね。
高1の5月連休あけ、3人を見かけなかったので同じ中学の出身者(女子)に聞いてみたら、彼女らは休んでいるとのことだった。
(珍しいな・・・中学では皆勤賞をもらうほどだったのに)
僕は少し不安になった。
しかし、流行病の関係でリモート授業を受けようになり、学校に行く機会が減っていたこともあり表には出さなかった。
僕と三葉の君の3人は高校で会っても会釈する位の関係になった。
そんな中、三葉の君の3人が小神家で住み込みでバイトしているといううわさが流れた。
真偽はわからない。
3人にたまにあっても聞けなかった。
そして、もっと衝撃的な噂を耳にした。
三葉の君の3人が、生活苦で小神家に雇われてたが、そこで体を売っているというものだ。
高1の夏休みが明けて彼女らを見かけたが、明らかに雰囲気が変わっていた。
なんというか目に光がなく、焦点があってないような感じだったのだ。
僕はますます不安になった。
それから、僕はますます3人の動向に敏感になった。
3人は休みがちになっていた。僕は夏芽さんに話しかけることに成功し、話を聞いてみることにした。
三葉の中で一番快活だった優月ちゃんだったが、高校に上がってしばらくしてからはその快活さが失われて、なんとなく陰にこもるような雰囲気になっていた。
「こんにちは。久しぶりだね。」
「そうね。久しぶり。」
「中学の生徒会のことが何か遠い昔のことみたいだね」
「そうね。」夏芽さんがフッと笑う。
「最近、妙な噂を聞いたんだけど。」
「何のことかしら。」
「えと、夏芽さんたち3人が小神家に雇われているって」
「ああ、その話?。事実よ」
あっさり肯定されて、驚いた。
「隠さないんだね。」
「隠しても仕方ないからね。この話はもうしないほうがいいわよ。
この町で小神家に関することを嗅ぎまわるとろくな目に合わないから。」
「何か僕にできることはないかな?」
「あなたは優しい人ね。でも、できることは何もないと思う。」
「そう・・・」
僕は僕なりに彼女らを心配していたが、待っていたのはやんわりとはしていたがきっぱりとした拒絶だった。
僕はそれ以上何も言えず、そこで別れた。
それから、三葉の君の3人をたまに見かけることがあったが、あからさまに避けられるようなった。
休みがちな彼女らは成績も落ちて行った。
以前は僕より明確に成績が上だったが、今はもう僕の方が上で彼女らは学年の真ん中らへんの成績らしかった。
学校的には問題なのだろうが、小神家から多額の寄付をもらっている学校側は彼女らを明らかに避けていた。
そうした雰囲気は周囲の生徒にも伝わり、彼女らはますます周りから孤立した。
何度か接触して、「もうかかわらないで」と拒否される。
そんな日々が続いた。
中学からの友達、岡君からも警告された。
「よう、兄弟、三葉の3人に話しかけているようだが、辞めた方がいいぜ」
「なんで?、岡君は何か知ってるの?」
「俺も詳しい事情は知らないけど、同中の女子が何度か先生に様子を聞きに行ったんだよ。
先生はあからさまに三葉の3人の話題を避けたそうだ。」
「そう・・・か。でももう少し調べてみるよ」
僕は岡君には心を許していたので、正直にそう答える。
「いや、ヤバいって一人じゃなくて複数の連中から聞いた話だからな。」
「そうか、止めた方がよさそうだね。忠告、ありがとう。」
そう言って岡君と別れたが、僕はやめるつもりは全くなかった。
(ふう、あれはやめるつもりはねえな。好奇心は猫を殺す・・・か)
いろいろな人の話を聞いて、僕の不安はもはや抑えきれないくらい大きくなっていた。
しかし、未成年に過ぎない僕に何かができるというわけもなく、時間だけがむなしく過ぎて行った。
そして、2年生の休み明け、久しぶりに三葉の3人が校内で話題になっていた。
正確に言えばこころちゃんだ。
下世話な男子の噂話だったが、こころちゃんの胸が休み前と比較すると明らかに大きくなっているというのだ。
僕は校内ではあから様に三葉から避けられていたし、最近では小神家に協力している女生徒が三葉たちを守るように邪魔してくるので校内で接触するのは難しくなっていた。
だから、下校するときに通学路を先回りして待ち伏せするようにしていた。
もちろん遠くから見守るだけで声などはかけない。
すると、やはりこころちゃんは以前とは露骨に胸の大きさが違っていた。
つつましやかだったこころちゃんの胸は巨乳といってもよい葵ちゃんと同じくらいになっていた。
こんなことがあるんだろうか?
僕は「体を売っている」という噂を思い出し、不安がまた大きくなっていくのを感じた。
そんな日々を過ごしていると、すっかり真面目になった小神君から話しかけられた。
「よう、白石。」
「こんにちは小神君。最近頑張ってるみたいだね。生徒会に入ったとか。中学の時と立場が逆転してしまったね」
「そうだな。真似しているようで申し訳ないのだが、中学の時のお前を参考にさせてもらってる」
「それから・・・」
小神君は少し躊躇して、僕に忠告してくれた。
「何か三葉の3人を嗅ぎまわっているようだが、やめたほうがいいぜ。」
僕は何か意図があるのか考えあぐねていた。
「別に裏は何もないぜ。小神家の一員としての純粋な忠告だ。かかわらないほうがいい」
「わかった。ありがとう。参考になったよ。」
しかし、言葉とは裏腹にこの一見から僕はますます三葉の3人の動向が気になるようになった。
「深く立ち入らない方が良いかもしれない」と思ったが、忘れてしまうには、3人と過ごした日々は鮮烈すぎた。
僕は時々彼女らの後をつけて、小神家の屋敷まで行っては何もできずに帰るという日々をしばらく過ごしていた。
ある日、3人の後をつけて小神家につくと、黒いスーツを着た体のがっちりした男たちに囲まれた。
「白石様ですね?」
「しまった」と思ったがもう後の祭りだ。
走って逃げることも考えたが、ここで逃げたらもう2度とここには近づけないだろう。
「はい」
「こちらにどうぞ」
僕は有無を言わせない迫力に案内されるまま、小神家の屋敷に通された。
案内された場所は裏口から入った離れの小さな応接室だった。
僕のような未成年の子供にはまともな応接室は必要がないということなのか・・・。
小神警備の筋肉マンが監視するように直立不動で立っている。
しばらくすると葵ちゃんがお茶を出してきた。
彼女は赤く丈の短い着物を着ていた。
彼女がきちんと働く姿を見ると、僕は安心した。
我ながら単純だが、人間なんてこんなものだろう。
岡君や真面目になった小神君からさんざん警告されたが、この安心感が得られたことは僕には大きかった。
危険を冒した甲斐はあったろう。
「来てしまったのね。白石君。あれほど来ないでと言ったのに」
菜月さんは悲しそうに目を伏せた。
小神警備の筋肉マンが葵ちゃんを睨んで顎をしゃくる。
すると葵ちゃんはそのまま出て行ってしまった。
僕は出されたお茶を飲んだ。
そこからの記憶がない。
後編へ続く
三葉の君へ ~転校先で出会った三人の美少女~(前編) 本記事














